サラサラのひまわり油より、粘っこいヘアオイルの方が髪になじむのはなぜ?

濡れた髪にヘアオイルをなじませる日常の様子を描いた水彩画 身近な科学

サラサラのひまわり油より、粘っこいヘアオイルの方が髪になじむのはなぜ?

夜、髪を乾かす前に100%のひまわり油を使っています。

手に出したときのひまわり油はかなりサラサラです。ところが濡れた髪になじませてみると、思ったより「油が乗っている」感じがあり、少し重い。指通りが悪いわけではないのですが、髪全体に薄く均一に広がるというより、油膜の存在を感じます。

一方、昼間に使っているルシードエルのヘアオイルは、手に出すとひまわり油よりずっととろみを感じます。それなのに髪につけると、こちらの方がするっと広がって軽い。

液体としてサラサラな方が、髪にもなじみやすそうなのに、実際には逆でした。

なぜでしょうか。

調べてみると、そもそも「液体の粘度」と「髪へのなじみやすさ」は別の物性だと分かってきました。

「サラサラ=広がりやすい」ではない

液体を手に出したときに感じるサラサラ感は、主に液体そのものの粘度に関係します。

しかし、髪につけたときの感触には、それ以外にもいくつもの要素が関わります。

  • 毛髪表面をどれだけ濡らしやすいか
  • どれくらい薄い膜として広がるか
  • 毛髪同士の摩擦をどれだけ下げるか
  • 塗布後に成分の一部が揮発するか
  • 水で濡れた毛髪表面でどう振る舞うか

つまり、ボトルの中での「流れやすさ」だけを見ても、髪の上での使用感は決まりません。

ひまわり油は、ほぼそのまま「油」が残る

100%のひまわり油は、主にトリアシルグリセロールからなる植物油です。

髪に塗れば当然、毛髪表面に油膜を作ります。植物油にも毛髪を潤滑し、摩擦を減らす働きはあります。

ただし、ひまわり油はヘアケア専用に「薄く広げて、必要な成分だけ残す」よう設計された混合物ではありません。また、通常の使用条件ではほとんど揮発しないため、つけた量の多くがそのまま毛髪上に残ります。

少量なら問題なくても、少し量が多くなるだけで「重い」「油が乗っている」と感じやすいのは、このためと考えられます。

市販の「ヘアオイル」は、実は単純な油ではない

ここで、普段使っている製品に近いルシードエル オイルトリートメント #EXヘアオイルの成分表を見てみました。

メーカー公式サイトでは、成分は次の順に記載されています。

イソドデカン、水添ポリイソブテン、ジメチコン、イソノナン酸イソノニル、アルガニアスピノサ核油……

商品名は「ヘアオイル」ですが、実際の中身は植物油だけではありません。

軽い炭化水素、合成エモリエント、シリコーン、植物油などを組み合わせた毛髪表面の感触を設計するための複合流体です。

ルシードエル オイルトリートメント #EXヘアオイル(マンダム公式)

イソドデカンは「広げてから減る」

成分表の最初にあるイソドデカンは、化粧品で使われる揮発性の炭化水素です。

塗るときには液体を広げるキャリアとして働きますが、塗布後には徐々に揮発します。

100%ひまわり油では、塗った油の大部分がそのまま残ります。一方、このような処方では、塗布時には十分な流動性を持たせながら、その後は一部の成分が減って薄い膜を残すことができます。

「塗るときはよく伸びるのに、仕上がりは重くなりにくい」という感触を作れるわけです。

シリコーンは「粘度」より「摩擦」に効く

さらに重要なのがジメチコンなどのシリコーンです。

毛髪化粧品に関するレビューでは、シリコーンは毛髪表面に膜を形成し、毛髪同士の摩擦を減らし、櫛通りや滑らかさ、ツヤを改善する代表的なコンディショニング成分として整理されています。

Hair Cosmetics: An Overview

2025年に発表された毛髪摩擦のレビューでも、触ったとき・ブラッシングしたとき・櫛でとかしたときの感覚には毛髪表面の摩擦が大きく関係すると整理されています。

Understanding and controlling the friction of human hair

ここが今回の感覚のポイントです。

粘度の高い液体でも、毛髪表面の摩擦を大きく下げれば「するっ」と感じます。

反対に、液体として低粘度でも、厚めの油膜として残れば「重い」と感じることがあります。

「とろみ」は、むしろ狙って作られている

ルシードエルのシリーズには、メーカー自身が「とろけるジェルオイル」と説明しているタイプもあります。

たとえば #EXヘアリペアオイルには、イソドデカン、水添ポリイソブテン、ジメチコンに加え、水、グリセリン、アモジメチコンなどが配合されています。

ルシードエル オイルトリートメント #EXヘアリペアオイル(マンダム公式)

つまり、容器から出した瞬間の「とろっ」とした感触と、毛髪上での「するっ」とした感触を両立させること自体が処方設計になっています。

見た目の粘度だけでは、使用感を予測できません。

濡れた髪ではさらに複雑になる

今回はどちらも濡れた髪につけていました。

ここでは毛髪表面に水の膜が存在します。油と水は基本的に混ざらないため、100%植物油を均一に薄く広げるのは意外と簡単ではありません。

一方、市販のヘアオイルは、低表面張力の成分やシリコーン、エステルなどを組み合わせて毛髪上での広がりや感触が調整されています。

なお、通常の #EXヘアオイル自体は水を含まない処方です。そのため、「水と混ざるからなじむ」という単純な話ではありません。濡れ性、膜形成、摩擦、揮発性などが組み合わさった結果と考えるのがよさそうです。

ヘアオイルは「油」ではなく、毛髪用に設計された流体だった

今回の疑問は、最初はとても単純でした。

なぜサラサラのひまわり油より、とろみのあるヘアオイルの方が髪になじむのか。

答えは、「サラサラ」という一つの感覚だけでは液体の性能を説明できないからでした。

ひまわり油は、植物油そのものです。

市販のヘアオイルは、

  • 広げる
  • 滑らせる
  • 薄い膜を作る
  • 一部を揮発させる
  • 毛髪表面の摩擦を下げる

といった複数の役割を、それぞれ異なる成分に担当させた処方です。

そう考えると、市販のヘアオイルは「美容用の油」というより、毛髪の表面状態と触感を制御するために設計された複合材料と呼んだ方が実態に近いのかもしれません。

身近な製品ですが、中身を少し掘るだけで、レオロジー、界面科学、トライボロジーが一度に出てきました。

次は同じ毛束、同じ塗布量で植物油とヘアオイルを比較してみると、もう少し「実験」らしく検証できそうです。

参考

  • マンダム「ルシードエル オイルトリートメント #EXヘアオイル」 https://www.mandom.co.jp/products/detail.html?id=012600
  • Dias MFRG. Hair Cosmetics: An Overview. Int J Trichology. 2015. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4387693/
  • Understanding and controlling the friction of human hair. Advances in Colloid and Interface Science. 2025. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0001868625001915
  • マンダム「ルシードエル オイルトリートメント #EXヘアリペアオイル」 https://www.mandom.co.jp/products/detail.html?id=012602

コメント

タイトルとURLをコピーしました