2026年8月26日から始まった、2026年日本バイオインフォマティクス学会年会・第14回生命医薬情報学連合大会(IIBMP2026)に参加しています。
会場に着いて最初に目に入った看板には、今年の大会テーマとして、
「生成AI時代に バイオインフォマティクスがつなぐ ライフサイエンスコミュニティ」
とありました。
この時点で「今年はAI色が強そうだな」と思ったのですが、実際に1日目の発表を聞き、プログラムを眺め、展示を回ってみると、その印象はかなり強まりました。
厳密に演題数を数えたわけではありませんが、体感では4分の1くらいは、何らかの形でAIが絡んでいるように感じました。
もちろん、バイオインフォマティクス学会なので、すべてがAIというわけではありません。single-cell RNA-seq、空間トランスクリプトーム、ゲノム解析、代謝モデル、データベース、創薬など、扱われているテーマは非常に広いです。
その中に、生成AIやAIエージェントが、もはや特別枠ではなく自然に入り込んでいる。1日目を通して、そこが特に印象に残りました。
生成AIそのものの将来像から、研究者教育まで
初日には、生成AI技術の今後をかなり大きな視点から扱う講演もありました。
AIエージェントによる複雑な作業の自動化、科学研究の自動化、Physical AI、さらにその先のAGIまでを視野に入れた話です。
一方で、もっと足元のテーマとして、「生成AI時代にバイオインフォマティクスをどう学ぶのか」という議論もあります。
ここが面白いところです。
生命科学の研究者にとって、PythonやRを書けること、解析ツールを使えることは長い間かなり強い武器でした。しかしAI codingが急速に発達すると、「コードを書くこと」自体の希少性は下がっていく可能性があります。
もちろん、コードを理解しなくてよくなる、という話ではありません。
ただ、研究者に求められる能力の重心が、
どう書くか
から、
何を解析するか、結果をどう解釈するか、次に何を確かめるか
へ少しずつ移っていく可能性はありそうです。
AIの進化が、解析手法だけではなく、バイオインフォマティクス教育そのものに影響し始めていることが興味深く感じました。
展示を見ると、さらに「AI前提」の動きが見える
講演だけではなく、企業展示も面白いです。
解析手法やソフトウェアを提供する企業はもちろん多いのですが、それとは別に、PCやServerなど計算基盤そのものを扱う出展が複数見られました。
バイオインフォマティクスはもともと大規模な計算資源を必要とする分野なので、Serverがあること自体をAI化の証拠と考えるのは早計です。
ただし、今回面白かったのは、その先です。
研究データを外部へ出さず、研究室や組織の内部にServerを設置する。そして、そのServer上のデータや解析環境をMCP(Model Context Protocol)でChatGPTなどの生成AIにつなぎ、対話形式で利用できるようにするというサービスを紹介している企業もありました。
これはかなり象徴的だと思います。
研究分野では、未公開データ、共同研究データ、ゲノムデータなど、簡単に外部サービスへ送れない情報が大量にあります。
これまでは、
研究データをAIのところへ持っていく
という発想が中心でした。
しかし、研究データを内部に置いたままAIから安全に利用できる環境を構築できれば、
AIを研究データのある場所へつなぐ
という使い方が可能になります。
AIそのものだけではなく、AIを研究現場で実際に使うためのインフラまで商品になり始めていることが、展示から見えてきます。
「AIを使う研究」から「AIがいる研究環境」へ
ここまでを見ると、2026年の現在地は少し面白いところにあります。
数年前なら、生命科学におけるAIというと、画像認識や予測モデルなど、特定の研究課題にAIを使うイメージが強かったと思います。
現在は、それだけではありません。
AIが論文を読み、コードを書き、既存ツールを操作し、データを解析し、複数の処理をつなげる。
さらに、そのAIを研究室内のServerやデータ基盤へ接続する仕組みまで出てきています。
つまり、
「AIを使った解析」から、「AIが最初から研究環境の中にいる状態」へ移ろうとしている
ように見えます。
まだ完全にAIネイティブな研究室が一般化しているわけではありません。
むしろ今回の展示を見ていると、2026年はそのための部品が次々に揃い始めている段階、と表現した方が近そうです。
AIが賢くなるほど、実験データの価値はどうなるのか
そして個人的に気になっているのが、その先です。
AIが論文を読み、公開データを解析し、コードを書けるようになればなるほど、インターネット上にすでに存在する情報を扱うコストは下がっていきます。
そのとき相対的に価値が上がるのは、まだネット上に存在していないデータなのではないでしょうか。
研究室には、論文化されなかった結果、失敗した条件、装置ごとの差、培養条件、研究者が経験的に知っているコツなど、大量のデータがあります。
AIが研究を支援する能力を高めても、そのAIが知らない現実世界の情報は、実験によって新しく取得するしかありません。
そう考えると、AI時代はWetの価値がなくなるというより、むしろ、
AIと実験を往復しながら、独自のデータを増やせる研究環境の価値が上がる
可能性があります。
これは今回の学会を回りながら、かなり考えさせられた点でした。
1日目を終えて
IIBMP2026の1日目を終えて感じたのは、バイオインフォマティクスにAIという新しい道具が追加された、という程度の変化ではないのかもしれない、ということです。
AIが解析を行い、AIエージェントが複数の作業をつなぎ、そのAIを研究データや計算基盤へ接続する。
一方で、AIだけでは新しい実験データそのものは生まれません。
情報科学と生命科学、そしてDryとWetの境界が、もう一度大きく動き始めている。
そんな印象を受けた1日目でした。
現在は2日目に参加中です。
2日目には植物のゲノム編集に関する発表もあり、個人的にはかなり面白い内容になっています。
こちらはまた、2日目としてまとめたいと思います。


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