最近、ChloroQuest向けの論文探索をかなり自動化しています。植物科学の新しい論文を広く拾って、内容を整理し、その中から「これは読んでみる価値がありそう」という候補を出してもらう仕組みです。
作り始めた頃は、単純に「毎日、記事になりそうな論文を10本くらい選んでくれれば便利だな」と考えていました。でも実際に動かしてみると、少し違うことに気付きました。
AIは、論文を渡せばかなりの確率で「面白そうな記事」を作れてしまいます。
例えば、研究としては堅実だけれど一般読者には少し地味な論文でも、「意外なポイントは何か」「将来どんな応用が考えられるか」「一般向けのタイトルを付けるならどうするか」と聞けば、それなりに魅力的な切り口を出してきます。文章を書く能力が上がったことで、素材そのものがそこまで面白くなくても、面白そうに料理することができるようになってきました。
でも、これって順番が逆なんじゃないかと思ったんです。
私がAIにしてほしいのは、面白くない論文から面白い記事をひねり出すことではなく、膨大な論文の中から、本当に面白い論文を見つけてくることでした。
面白い記事を作る能力と、面白い論文を見つける能力は別
論文検索を人間だけでやっていると、どうしても限界があります。NatureやScience、その系列誌、あるいは普段から知っている植物系の有力誌を見るだけでも相当な量がありますし、専門誌や小規模なオープンアクセス誌まで広げると、とても全部は追えません。
でも、面白い研究は必ずしも有名誌だけに出るわけではありません。
植物が変わった環境応答をしている。昔から知られていた現象の仕組みが突然つながった。地味だった分子機構が、実は育種や農業技術につながりそうだ。ある植物で知られていた現象が、全然違う植物でも見つかった。
そういう論文を、自分が普段巡回していない場所から拾ってきてほしい。
ここはAIと相性がいいと思っています。人間ならタイトルを数百本見た時点で疲れますが、機械なら何千本でも比較できます。過去に蓄積したKnowledgeとも照合できますし、「以前読んだこの論文と関係がありそう」といった横断的な探索もできます。
だったらAIには、記事を書く前段階でもっと働いてもらったほうがいい。
私が欲しいのはライターを100人増やすことではなく、世界中の植物科学論文を毎日読んで、「今日はこれが面白いです」と持ってきてくれる調査担当です。
「重要な論文」と「今読みたい論文」も同じではない
ここでもう一つ難しかったのが、研究として重要な論文と、私がChloroQuestで取り上げたい論文が必ずしも一致しないことでした。
例えば、ある遺伝子の機能を非常に丁寧に証明した論文があるとします。科学的には価値が高いし、今後別の論文を読むときの基礎知識にもなる。でも、それ単独で「これは面白い」と感じるかというと、そうでもないことがあります。
逆に、研究分野全体をひっくり返すほどではなくても、「植物ってそんなことをしているのか」と思える論文があります。ChloroQuestで紹介したくなるのは、むしろこちらだったりします。
そこで今の仕組みでは、論文を一つの点数だけで評価しないようにしています。
その論文がKnowledgeとしてどれくらい残す価値があるか。仕組みの理解に使えるか。別の研究とつながるか。将来何度も参照しそうか。
それとは別に、今読んで面白いか。一般の人にも説明したくなる現象か。意外性があるか。図や比喩にしたとき伝わりやすいか。既存の常識と少し違うところがあるか。
この二つを分けるようにしました。
これは「AIに記事にするかどうかを決めてもらう」という話ではありません。最終的に何を書くかを決めるのは私です。
AIには、判断しやすい状態まで材料を持ってきてもらえばいい。
記事にしなかった論文も捨てない
この仕組みを作っていて、もう一つ重要だと思ったのが「今日選ばなかった論文をどうするか」です。
毎日10本候補が出てきても、全部記事にはできません。でも、そこで残りを捨ててしまうと、それまでにAIが読んで整理した情報も一緒に消えてしまいます。
これはもったいない。
単独では地味な論文でも、数か月後に別の研究とつながることがあります。基礎研究しかなかった仕組みに応用研究が出てきたり、別の植物種で同じ現象が見つかったりすることもあります。
論文Aだけでは記事にしなかった。でも後から論文Bが出て、「この2本、実は同じ仕組みを別方向から見ているのでは」となれば、一気に面白くなる。
そういう可能性があるので、記事として選ばれなかった論文の中でもKnowledgeとして価値があるものは残すようにしています。
そうするとAIの役割も少し変わってきます。
「今日の記事を10本考える」ではなく、「今日出た研究を広く見て、面白そうなものを前に出し、将来効いてきそうなものは裏側に蓄積しておく」。
こっちのほうが、自分が欲しかった仕組みに近いと感じています。
AIに記事を量産させるのは簡単になった。でも、それが目的ではない
生成AIを使えば、今はかなり簡単に記事を大量生産できます。論文の要約を作り、タイトルを考え、本文を書き、画像まで作るところまで自動化できます。
技術的には、私のシステムでもそれに近いことはできます。
でも、それをやりたいわけではありません。
面白くない素材を文章力で面白そうに見せる記事を大量に作っても、あまり意味がないと思っています。
むしろ、記事の本数が少し減ってもいいから、「これは面白かった」と思った研究を紹介したい。
植物科学には、研究者からすると普通に見えても、少し外から見るとかなり変なことがたくさんあります。植物同士がRNAをやり取りしたり、環境によって遺伝子の使い方を大きく変えたり、数十年前の基礎研究が突然農業技術につながったりする。
そういう研究を見つけるところにAIを使いたい。
文章を書く部分は、その後です。
私が論文を見て、「これは面白い」「ここを掘りたい」「この切り口ならChloroQuestで紹介したい」と決める。その判断材料をAIが大量の論文の中から持ってくる。
編集長は私のままでいい。
欲しいのは、文章を勝手に量産するAIではなく、毎朝こちらの机に論文を置いて、
「今日、この研究はちょっと面白いと思います」
と言ってくれる、ものすごく勤勉な研究担当です。
最近作っている論文探索システムは、ようやくそちらの方向に近づいてきました。


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