2024年5月、私はこのブログに「太陽周期とFX」という記事を書きました。
太陽活動が地球環境や経済へ影響するなら、為替相場にも何らかの周期が現れるのではないか。月平均黒点数とドル円・ユーロ円を重ねてみると、完全には一致しないものの、転換点が重なる場所もありました。
当時の記事では、次のようにまとめています。
- 大雑把には重なって見える
- 黒点数が先行する場合と遅行する場合がある
- 太陽活動の極小期付近で、為替が反転しているように見える年がある
- 売買シグナルとまではいえないが、長期的な環境認識には使えるかもしれない
あれから2年以上が経ちました。
現在のChatGPTは、データを集めてグラフを作るだけでなく、時系列の性質を確認し、複数の統計検定を行い、条件を変えながら予測力まで検証できます。
そこで今回は、昔の自分が見つけた「それっぽい相関」を、現在使える機能を最大限使って本気で再検証してみました。
55年分のデータで検証する
分析には、1971年から2025年までの年次データを使いました。2026年は年の途中なので除外しています。
主に使ったのは次のデータです。
- 太陽黒点数:WDC-SILSOの月次黒点数を年平均化
- ドル円:FREDの年平均USD/JPY
- ユーロ円:FREDのEUR/USDとUSD/JPYから算出(1999年以降)
- 比較用データ:米国と日本の10年国債利回り差
単純な相関だけでなく、次の方法でも確認しました。
- 黒点数と為替リターンの相関
- 黒点数を数年前後へずらすラグ分析
- 偶然でも同程度の相関が出るかを見るランダム化検定
- 15年ごとのローリング相関
- 太陽活動の極小・極大期を基準にしたイベント分析
- 11年周期が為替に含まれるかを見る周期解析
- 過去データだけを使って翌年を予測するウォークフォワード検証
見た目が似ているかではなく、将来の値動きを説明・予測できるかまで踏み込んでいます。
単純相関は、ほぼありませんでした
最初の結果は、かなり明確でした。
| 比較したもの | 相関係数 | p値 |
|---|---|---|
| 黒点数とドル円の水準 | 0.116 | 0.399 |
| 黒点数とドル円の年次リターン | 0.173 | 0.212 |
| 黒点数の増減とドル円リターン | 0.012 | 0.932 |
| 黒点数とドル円の変動幅 | -0.020 | 0.885 |
| 黒点数とユーロ円リターン | 0.232 | 0.253 |
一般に、p値が0.05未満であれば「偶然だけでは説明しにくい」と判断することが多いのですが、どれも基準に届きません。
特に、黒点数の増減とドル円リターンの相関係数は0.012でした。ほぼ完全な無相関です。
元の記事では「黒点数が増減している時期は市場も動きやすいかもしれない」と考えていましたが、少なくとも年次データでは支持されませんでした。
為替レートの「水準」を比べると危ない
グラフを重ねると関係がありそうに見える理由の一つは、どちらも時間方向になめらかに変化する時系列だからです。
このような系列は、そのまま相関を取ると、実際には関係がなくても相関が出ることがあります。いわゆる偽相関です。
今回、時系列が安定した性質を持つかをADF検定で調べたところ、ドル円の水準と黒点数はどちらも非定常でした。一方、前年からどれだけ動いたかを示す為替リターンは定常でした。
売買や予測に使える関係を調べるなら、為替レートの水準よりも、リターンや変化量を見る必要があります。
そして、そのリターンでは相関が消えました。
5年ずらすと「有意な相関」が見つかった
ここからが今回もっとも面白かった部分です。
黒点数を為替に対して1年ずつ前後へずらし、マイナス8年からプラス8年まで総当たりしました。
すると、黒点数が為替より5年先行する条件で、次の結果が出ました。
- 相関係数:-0.289
- p値:0.042
p値だけを見ると、0.05を下回っています。
「やはり太陽活動は、5年後のドル円に影響していた」と言いたくなる結果です。
しかし、これは17通りのずらし方を試し、その中から最も良かったものを選んだ結果です。たくさん試せば、偶然よく見える条件が一つくらい出てきます。
そこで多重検定の補正をすると、p値は0.406まで上がりました。
さらに、黒点数の波の形を保ったまま開始位置だけをランダムにずらす処理を1万回行いました。その結果、今回と同程度以上の最大相関が偶然に出る確率は56.2%でした。
つまり、5年先行の相関は、十分に偶然起こり得るものでした。
これは、データ分析で「一番きれいに見える条件だけを後から選ぶこと」がどれほど危険かを示す、よい実例になりました。
それでも一つ、面白い候補は残った
黒点数を単純な数値ではなく、次の4局面に分けてみました。
- 黒点数が低く、減少中
- 黒点数が低く、増加中
- 黒点数が高く、減少中
- 黒点数が高く、増加中
すると、翌年のドル円には次の傾向が出ました。
| 太陽活動の局面 | 翌年の平均リターン | 円安になった割合 |
|---|---|---|
| 高水準・増加中 | +3.1% | 68.8% |
| 高水準・減少中 | -3.6% | 20.0% |
| 低水準・増加中 | -3.4% | 42.9% |
| 低水準・減少中 | -3.0% | 45.0% |
黒点数が高い水準でさらに増えている年の翌年は円安が多く、ピークを越えて減少に入った年の翌年は円高が多い、という形です。
この比較だけを行った場合のp値は0.041でした。
ただし、黒点数を何年で平滑化するか、高低をどこで分けるか、何年先を見るかを変えて複数条件を試しています。それらを補正するとp値は0.730になりました。ユーロ円でも再現しませんでした。
したがって、これは「新しく調べる価値のある仮説候補」ではありますが、実証されたFXアノマリーとは呼べません。
太陽活動の極小期で為替は反転するのか
以前の記事では、1995年、2001年、2012年、2020年付近の転換に注目しました。
今回、黒点数の3年移動平均から太陽活動の極小年を抽出すると、1976年、1986年、1996年、2008年、2019年が選ばれました。
1996年と2019年は、その後の円安方向への変化と比較的よく重なります。
一方で、1976年、1986年、2008年の後は円高が進みました。特に2008年は太陽活動が極小でしたが、金融危機とリスク回避による円高の影響がはるかに大きく出ています。
極小期付近に転換点が現れる年はあっても、方向は一定ではありません。
「太陽活動が極小になると円安へ転換する」という法則は成立しませんでした。
ドル円に11年周期は見えるか
太陽活動には約11年の周期があります。
そこで、ドル円の年次リターンにも同じ周期が含まれているかをスペクトル解析で調べました。
強く出たのは約4年から8年の周期で、11年付近は主要なピークではありませんでした。
ただし、1971年から2025年までの55年間でも、太陽周期としては約5回しかありません。11年周期を統計的に検出するには、そもそも観測回数が少ないという限界もあります。
太陽活動より説明しやすいもの
大きな為替変動が起きた年を並べると、太陽活動の高低や増減に共通したパターンはありませんでした。
例えば、1986年の急激な円高はプラザ合意後のドル調整、2013年の円安は日本銀行の量的・質的金融緩和、2022年の円安は米日金利差の急拡大と対応します。
今回のデータでも、米日10年国債利回り差とドル円水準の相関係数は0.336、p値は0.042でした。これも単純な因果関係を示すものではありませんが、黒点数よりは現実の為替変動と結びつきやすい結果でした。
為替は、金融政策、インフレ、景気、貿易、資金移動、投資家のポジションなど、非常に多くの要因で動きます。
太陽活動の影響が仮に存在していたとしても、それらの中ではかなり小さい可能性があります。
予測モデルに入れても改善しなかった
最後に、過去のデータだけを使って翌年のドル円リターンを予測するウォークフォワード検証を行いました。
黒点数と黒点数の増減を使ったモデルは、単純に過去の平均リターンを予測するモデルより、誤差が中央値で約1.4%悪化しました。
一部の条件では改善しましたが、学習期間などを変えると結果が安定しません。
単独の売買シグナルとして使えるほどの予測力は確認できませんでした。
今回、ChatGPTが変えたもの
以前の記事でも、ChatGPTを使ってデータの整理と作図は行っていました。
しかし当時は、グラフを見て「何となく重なる」「この転換点は似ている」と考えるところが中心でした。
今回は、そこからさらに進められました。
- 公開データを取得して年次系列へそろえる
- 見かけの相関と、予測に使える相関を分ける
- ラグを総当たりした時の多重検定を考慮する
- ランダムデータでも同じ結果が出るか確かめる
- 一部の期間だけでなく、時代をまたいで再現するか確認する
- 予測モデルに組み込み、未知の年で成績を見る
AIは、こちらの仮説に都合のよい説明を作るだけの道具ではありません。
使い方次第では、自分が見つけた法則を徹底的に疑い、壊すための道具にもなります。
今回もっとも価値があったのは、「太陽周期とFXには関係がある」という結論ではなく、「なぜ関係があるように見えたのか」を切り分けられたことでした。
結論:補助線にはなるが、売買シグナルにはならない
今回の結果をまとめると、次のようになります。
- 黒点数とドル円・ユーロ円の年次リターンに有意な相関はない
- 数年ずらすと有意に見える条件は出るが、多重検定とランダム化で消える
- 太陽活動の局面別に興味深い候補は出たが、別条件や別通貨では再現しない
- 太陽活動の極小期と為替転換は、一部の年では重なるが方向が一定しない
- 黒点情報を予測モデルへ加えても安定した改善はない
したがって、太陽周期は長期チャートを見る時の「補助線」や研究用の注釈にはできますが、単独のFX売買シグナルとして扱うのは難しい、という結論です。
ただし、太陽と金融市場の検証がこれで終わったわけではありません。
黒点数は非常に粗い年次指標です。次に調べるなら、日次のKp・Ap・Dstといった地磁気指数と、ドル円のボラティリティ、VIX、リスク回避局面、キャリートレードの解消を比較する方が、既存研究で想定される仕組みに近くなります。
昔の自分の仮説は、そのままでは支持されませんでした。
しかし、完全に捨てるのではなく、どこが弱く、次に何を調べるべきかまでは明確になりました。
それだけでも、再検証した意味はあったと思います。
使用データ・参考資料
- 以前の記事:太陽周期とFX
- WDC-SILSO:Sunspot Number
- FRED:Japanese Yen to U.S. Dollar Spot Exchange Rate
- NASA:Solar Variability and Terrestrial Climate
黒点数データの出典:Source: WDC-SILSO, Royal Observatory of Belgium, Brussels, DOI: 10.24414/qnza-ac80
※本記事はデータ分析の記録であり、投資助言を目的とするものではありません。

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