先日、友人から「ホテルにこんな甘味料が置いてある」と連絡が来ました。
名前は「パラチニットスイート」。
調べてみると、1本はわずか1.2g。それなのに砂糖5gと同程度の甘さがあり、エネルギーは2.4kcalです。砂糖5gなら約20kcalなので、確かにかなり違います。
では、なぜこんなことができるのでしょうか。
さらに調べていくと、砂糖の代わりとして売られているものには、エリスリトール、マルチトール、パラチニット、アルロース、ステビア、アスパルテーム、スクラロースなど、かなり多くの種類があることが分かります。
しかも、これらは単に「砂糖よりカロリーが低い物質」という一種類のグループではありません。
ほとんどエネルギーにならないもの。砂糖より少ないもの。エネルギー量は砂糖とほぼ同じだけれど、ゆっくり吸収されるもの。砂糖の数百倍も甘いため、そもそも使用量が桁違いに少ないもの。そして、それらを複数組み合わせた市販製品。
かなり性質が違います。
そこで理系猫凛では、砂糖代替甘味料を一つずつ科学的に整理するKnowledgeシリーズを始めます。
「100gあたり」ではなく、「砂糖5g分の甘さ」で比べたい
甘味料を比較するとき、「100gあたり○kcal」という数字だけを比べても、実生活ではあまり役に立ちません。
理由は簡単です。
甘さが違うからです。
例えば砂糖の200倍甘い物質と砂糖を、100gずつ比較しても意味がありません。
そこでこのシリーズでは、原則として、
「砂糖5gと同程度の甘さを得るために必要な量」
を共通の物差しにします。
コーヒーや紅茶に入れる砂糖を想像すると分かりやすい量です。
砂糖のエネルギーを4kcal/gとすると、
砂糖5g=約20kcal
です。
これを基準に、それぞれの甘味料で同じ程度の甘さを作った場合、何g必要で、何kcalになるのかを考えます。
同じ「代替甘味料」でも、ここまで違う
代表的なものを原料単体で大まかに比較してみます。
| 甘味料 | 分類 | 砂糖を1とした甘味度の目安 | 日本でのエネルギー換算 | 砂糖5g相当の甘さに必要な量の概算 | エネルギーの概算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 砂糖(ショ糖) | 糖 | 1 | 4 kcal/g | 5g | 約20kcal |
| エリスリトール | 糖アルコール | 0.6~0.8 | 0 kcal/g | 約6.3~8.3g | 0kcal |
| アルロース | 希少糖 | 約0.7 | 0 kcal/g | 約7.1g | 0kcal |
| マルチトール | 糖アルコール | 約0.7~0.9 | 2 kcal/g | 約5.6~7.1g | 約11~14kcal |
| パラチニット(イソマルト) | 糖アルコール | 約0.45~0.65 | 2 kcal/g | 約7.7~11.1g | 約15~22kcal |
| ソルビトール | 糖アルコール | 約0.5~0.7 | 3 kcal/g | 約7.1~10g | 約21~30kcal |
| パラチノース | 糖 | 約0.5 | 4 kcal/g | 約10g | 約40kcal |
甘味度には測定条件や食品中の濃度による幅があるため、ここでは文献値を使った概算です。しかし、この計算だけでも重要なことが見えてきます。
消費者庁が栄養成分表示で用いるエネルギー換算係数では、エリスリトールとD-プシコース(アルロース)は0kcal/g、パラチニットやマルチトール、マンニトール、ラクチトールなどは2kcal/g、ソルビトールは3kcal/gとされています。つまり、「糖アルコールだから全部同じ」ではありません。
糖アルコールについて報告されている甘味度にもかなり差があり、エリスリトールは砂糖の0.6~0.8倍程度、マルチトールは0.9倍前後、イソマルトは約半分程度です。
そして少し意外なのがパラチノースです。
パラチノースは砂糖の約半分の甘さですが、エネルギーは砂糖と同じ4kcal/gです。つまり、これは「少ないカロリーで甘くするための糖」ではありません。砂糖よりゆっくり消化吸収されるという性質を利用する糖質です。
同じ「砂糖の代わり」として語られることがあっても、目的そのものが違うわけです。
「糖質3g、0kcal」は矛盾していない
さらにややこしいのが食品表示です。
例えば「パルスイート カロリーゼロ」の顆粒タイプは、小さじ1杯3gあたり、
- エネルギー 0kcal
- 糖質 3.0g
- 糖類 0g
と表示されています。主原料はエリスリトールです。
「糖質が3gあるのに、なぜ0kcalなのか?」
と疑問に思うかもしれません。
ここでは、「糖質」と「糖類」を分けて考える必要があります。
日本の食品表示では、「糖類」は単糖類または二糖類で、糖アルコールではないものと定義されています。したがってエリスリトールのような糖アルコールは「糖類」には入りません。一方、糖質は基本的に炭水化物から食物繊維を除いた範囲なので、糖アルコールを含むことがあります。
しかもエリスリトールについて、日本の表示上のエネルギー換算係数は0kcal/gです。
そのため、
糖質3g、糖類0g、0kcal
という、一見不思議な表示が成立します。
この違いを知らないまま「糖質○g」という数字だけを見ると、甘味料を正しく比較できません。
パラチニットスイートが低カロリーなのには、二つ理由がある
今回のきっかけになったパラチニットスイートに戻りましょう。
主原料のパラチニットは、一般名ではイソマルトと呼ばれる糖アルコールです。
砂糖を原料にパラチノースを作り、それを還元して製造されます。エネルギーは2kcal/gで、砂糖の半分です。
しかし、パラチニットそのものの甘さも砂糖のおよそ半分です。
これだけを見ると、「カロリーが半分だけれど、同じ甘さを出すにはたくさん必要なのだから、意味がないのでは?」という疑問が出てきます。
実際、原料単体を「同じ甘さ」で比較すると、単純なカロリー削減効果はそれほど大きくありません。
そこで商品としての「パラチニットスイート」には、アスパルテームが加えられています。
結果として、
1.2gで砂糖5g相当の甘さ
を作りながら、
2.4kcal
に抑えています。
これは非常に分かりやすい商品設計です。
低カロリーの糖アルコールで量と甘味の土台を作り、非常に甘味度の高い甘味料を少量加えて不足する甘さを補う。
市販の砂糖代替甘味料には、このような「ブレンド型」が数多くあります。
高甘味度甘味料は「カロリーが低い」というより「使う量が極端に少ない」
アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムKなどは、糖アルコールとはさらに別物です。
FDAが示す甘味度の目安では、
- アスパルテーム:約200倍
- アセスルファムK:約200倍
- スクラロース:約600倍
- ステビオール配糖体:約200~400倍
- 羅漢果由来甘味成分:約100~250倍
とされています。
ここまで甘いと、砂糖5g分の甘さを作るのに必要なのは数十mg程度になるものもあります。
そのため、市販品では純粋な高甘味度甘味料だけをスプーンで量って使うのではなく、エリスリトールなどと混ぜて「量」を持たせる設計がよく使われます。
例えば「パルスイート カロリーゼロ」は、エリスリトールにアスパルテームとアセスルファムKを組み合わせています。スティック1本1.8gで砂糖約5g相当の甘さになり、表示上のエネルギーは0kcalです。
「ラカントS」も、エリスリトールと羅漢果由来の高甘味度成分を組み合わせ、砂糖と同重量で置き換えられるよう甘味度を調整しています。
同じ「カロリーゼロ甘味料」でも、中身は同じではありません。
血糖値についても「糖アルコール」で一括りにはできない
カロリーだけでなく、血糖への影響にも差があります。
糖アルコールを比較した文献では、エリスリトールの血糖応答は極めて小さい一方、マルチトールではそれより明確な血糖応答が報告されています。イソマルトやキシリトールなども砂糖より低いものの、「すべてゼロ」と考えることはできません。
つまり、
砂糖ではない=血糖値に影響しない
ではありません。
ここは糖質制限を考える場合には特に重要です。
このシリーズでは「糖質○g」という表示だけではなく、
実際にどこまで吸収され、どう代謝され、ヒトでどのような血糖・インスリン応答が観察されているのか
まで確認していきます。
甘さだけ置き換えても、砂糖を完全には置き換えられない
もう一つ忘れてはいけないのが、砂糖は単なる甘味物質ではないということです。
砂糖は食品中で、
- 甘味
- 体積
- 保水
- 粘度
- 結晶形成
- 焼き色
- メイラード反応
- カラメル化
- 食感
など、さまざまな役割を担っています。
そのため、「同じ甘さだから砂糖100gを別の甘味料に置き換える」という計算だけでは、お菓子などでは同じものになりません。
例えばラカントSの主成分であるエリスリトールは、砂糖のようにはカラメル化せず、濃縮した後に冷えると再結晶する場合があります。メーカー自身もこの違いを説明しています。
これは欠点というより、物質が違えば食品中での機能も違うという話です。
このシリーズでは、カロリーと血糖だけでなく、この「食品物性」も比較していきます。
「0kcalなら、いくら使ってもいい」でもない
低カロリー甘味料については、もう一つ注意が必要です。
例えば糖アルコールは、大量に摂取すると消化管症状を起こすことがあります。
エリスリトールについてEFSAは2023年の再評価で、ヒト試験をもとに下痢を生じない水準として0.5g/kg体重/日を設定し、この値をADIとしています。
一方、アスパルテームなどの「非糖質甘味料」についてWHOは2023年、長期的な体重管理を目的として利用することを推奨しないという条件付き勧告を出しました。
ただし、このWHO勧告は個々の甘味料の毒性評価ではありません。また、エリスリトール、キシリトールなどの糖アルコールや低カロリー糖は、この勧告の対象外です。
「WHOが人工甘味料は危険だと言った」と単純化するのも正確ではありません。
安全性、体重管理、血糖応答、摂取量は、それぞれ別の問題として見ていく必要があります。
このシリーズで調べていくこと
今後は、代表的な甘味料を一つずつ掘り下げます。
エリスリトール、アルロース、マルチトール、パラチニット、キシリトール、ソルビトール、パラチノース、ステビア、羅漢果、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムKなどです。
さらに、
「ラカントSとパルスイートは何が違うのか」
「糖質と書いてあるのに、なぜ0kcalなのか」
「砂糖100gをお菓子で置き換えると何が起こるのか」
「血糖値を上げにくい甘味料と、カロリーが低い甘味料は同じなのか」
といった実生活の疑問も別記事として整理していきます。
原料と市販商品は必ず区別し、実際に試していない商品の味や後味については評価しません。
官公庁資料、査読論文、食品安全評価機関、メーカーの栄養成分表示や技術資料を使い、可能な限り数字に落とします。
そして共通の基準は、
「砂糖5g相当の甘さ」
です。
甘味料は、「人工か天然か」「ゼロカロリーかどうか」だけで分類できるほど単純ではありません。
分子構造が違えば、消化も、吸収も、代謝も、甘さも、食品中での役割も変わります。
ホテルに置いてあった1.2gの小さなスティックから始まりましたが、掘ってみるとかなり大きなテーマでした。
砂糖の代わりに私たちは何を使っているのか。
一つずつ、科学的に整理していきます。
主な参照資料
- 消費者庁「食品表示基準について・別添 栄養表示関係」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/foodlabeling/foodlabeling_act/
- WHO, Use of non-sugar sweeteners: WHO guideline (2023)
https://www.who.int/publications/i/item/9789240073616
- European Food Safety Authority, Re-evaluation of erythritol (E 968) as a food additive
https://www.efsa.europa.eu/en/plain-language-summary/re-evaluation-erythritol-e-968-food-additive
- DM三井製糖「パラチニット®スイート」「パラチニット®」「パラチノース®」
https://www.msdm-hd.com/jp/products/sweetener/palachinitto.html
- U.S. FDA, Aspartame and Other Sweeteners in Food
https://www.fda.gov/food/food-additives-petitions/aspartame-and-other-sweeteners-food
- Livesey G. Health potential of polyols as sugar replacers, with emphasis on low glycaemic properties.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5756564/
- Review of sugar alcohol metabolism and glycaemic effects.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9261844/


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