子どものために石けんを選んでいた。でも、その根拠を調べたことはなかった。

赤ちゃんの衣類と洗剤、石けん、科学的検証を象徴する虫眼鏡や実験器具を描いた水彩画 身近な科学

子どもが生まれてから、我が家では洗剤を選ぶ基準が少し変わりました。

食器用洗剤、洗濯用洗剤、身体を洗う石けんなどです。できるだけ天然由来で、添加物の少ないものを選んできました。

特別なこだわりがあったわけではありません。ただ、子どものことを考えると、なんとなくそのほうが安心できたからです。

一方で、最近の合成洗剤はよく汚れが落ち、使いやすく、価格も手頃です。それなのに、私はなぜ合成洗剤を避けてきたのでしょうか。

皮膚への刺激? アレルギー? 発がん性? 洗剤の残留?

考えてみると、何を具体的に心配していたのか、自分でも説明できませんでした。

自分は科学的な考え方を大切にしているつもりだったのに、日用品ではイメージに頼っていました。

これは一度、根拠から調べ直したほうがよさそうです。

そもそも「天然」と「合成」は何が違う?

まず確認したのは、石けんも界面活性剤の一種だという、考えてみれば当たり前の事実でした。

石けんの主成分は、油脂などを原料として作られる脂肪酸塩です。水と油の境界に働きかけ、汚れを落とします。

一方、合成洗剤にはさまざまな界面活性剤が使われ、その原料も石油由来とは限らず、植物由来の場合があります。

つまり、「天然由来」と「石けん」、「合成」と「石油由来」は同じ意味ではありません。

そして、もっと大切なのが、天然由来であること自体は安全性の証明にはならないということです。

米国環境保護庁(EPA)は、天然由来と表示された洗浄製品について、成分と潜在的な影響を確認しなければ、安全性を判断できないと説明しています。

原料のイメージより、個々の成分の性質を調べることが重要です。研究では当然のことを、家庭では省略していたのかもしれません。

一般的な合成洗剤は、子どもに悪いのか?

今回、最も確認したかった疑問です。

調べた範囲では、家庭用の合成洗濯洗剤を適切に使用しているという理由だけで子どもに有害とみなし、一律に避けるべきだとする医学的な根拠は確認できませんでした。

米国小児科学会の育児情報では、赤ちゃんの衣類を家族の衣類と一緒に一般の洗剤で洗っても、問題が起こらない家庭が多いと説明されています。ただし、この説明は2009年更新の一般向け資料であり、現在販売される全製品を調査した研究ではありません。

もちろん、「合成洗剤なら何でも安全」という意味ではありません。

界面活性剤には皮膚刺激の可能性があり、香料などが合わない人もいます。湿疹やアトピー性皮膚炎などがある場合には、とくに注意が必要です。

米国皮膚科学会も、湿疹のある子どもの洗濯では敏感肌向け洗剤を検討し、推奨量を守り、十分にすすぐよう助言しています。

つまり、問題は合成洗剤かどうかだけではなく、何をどのように使い、実際に肌がどう反応するかということです。

では、石けんのほうが安全なのか?

もし石けんのほうが子どもの肌に優しいという明確な研究結果があるなら、今の選択を続ける十分な理由になります。

ところが、こちらも単純ではありませんでした。

日本皮膚科学会・日本アレルギー学会の『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024』では、皮膚に使う石けんと合成界面活性剤を用いた洗浄剤について、いずれかの優位性を示すエビデンスはないとされています。

さらに、一般的な石けんはアルカリ性で、皮膚表面のpHを一時的に上昇させ、バリア機能を低下させる可能性があります。

石けんも界面活性剤なので、洗いすぎれば皮脂を落としすぎ、乾燥につながることがあります。

ただし、これは身体に直接使う洗浄剤の話であり、洗濯洗剤同士の健康影響を直接比較した結果ではありません。異なる用途の研究を混同しないことも大切です。

石けんには、一般に生分解性が良好であることや、配合を単純にしやすいことなど、確かに利点があります。

しかし、それらの利点が、そのまま「子どもの肌への安全性が高い」という結論につながるわけではありません。

石けんが持つ利点と、自分が石けんを安全だと思っていた理由は、必ずしも一致していませんでした。

「無添加」「成分が少ない」なら安心?

もう一つ、自分が無意識に頼っていたのが、「無添加」「成分が少ない」という言葉でした。

もちろん、必要のない香料などを避ければ、その成分による刺激やアレルギーの機会を減らせる場合はあります。

しかし、洗剤に添加される成分には役割もあります。

酵素は特定の汚れを分解します。キレート剤は水中の金属イオンによる洗浄性能の低下を抑えます。保存料は製品中の微生物増殖を防ぐために配合されることがあります。

必要な成分だから無条件に安全というわけではありません。だが、「添加されているから危険」とも言えません。

重要なのは、何のために使われ、どの程度の便益とリスクがあるのかを確かめることだと思います。

洗剤は「何に使うか」で評価基準が変わる

身体の洗浄、子どもの衣類の洗濯、食器洗いを用途別に描いた水彩イラスト

今回調べていて、洗剤をひとまとめにして考えていたことにも気づきました。

身体を洗う製品、衣類を洗う製品、食器を洗う製品では、洗剤が人に接触する仕方が違います。

身体や顔を洗う場合

洗浄剤が直接皮膚に触れるため、刺激性、脱脂力、洗浄後の乾燥が重要になります。石けんか合成洗浄剤かよりも、製品ごとの処方や肌との相性を重視したいと思います。

衣類を洗う場合

洗剤は洗ってからすすぐことを前提に使います。衣類への残留があり得ることと、それが健康被害を起こすことは同じではありません。規定量やすすぎ、肌の状態が判断材料になります。

食器を洗う場合

食器に付着した油脂や食品汚れを落とし、洗剤を適切にすすぎ流すことが目的です。洗浄性能とすすぎやすさ、必要な使用量が重要になります。

用途が異なれば、評価すべきリスクも違います。どれも同じように「天然だから安全」と判断するのは無理があります。

「有害性がある」と「使うと危険」は違う

今回、改めて意識したのが、ハザード(有害性)とリスク(実際に害が生じる可能性)の違いです。

例えば、界面活性剤に皮膚刺激性があるからといって、適切に洗濯・すすぎをした衣類を着ることが危険だと直ちに結論づけることはできません。

反対に、広く使われている製品だから、どんな条件でも安全とは言えません。

どの成分に、どの濃度で、どのような経路から、どれだけ接触するのでしょうか。個人の感受性はどうでしょうか。

そこまで考えなければリスクの比較はできません。

そして、悪影響が明確に示されていないことは、悪影響が絶対に存在しないことの証明でもありません。長期的な影響や感受性の違いには、まだ分からない部分もあります。

ただし、その不確実性は石けんにも合成洗剤にも存在します。

だから「不確実だから天然を選ぶ」という判断自体にも、根拠が必要なのです。

では、我が家はどうするのか

今回の調査を経て、石けんをすべてやめようとは思っていません。

今使っている製品に不満がなければ、使い続けることにも理由があります。

ただ、石けんだから安全だという前提は見直すことにしました。

  • 身体や顔には、刺激の少なさと肌との相性を優先します。
  • 洗濯では、洗浄力・使用量・香料などの成分・すすぎを確認します。
  • 食器では、洗浄性能とすすぎやすさを重視します。
  • 子どもによる原液の誤飲や目への接触を防ぐため、保管場所にも気を配ります。
  • 環境影響は天然由来という表示だけでなく、生分解性や水生生物への影響などで考えます。
  • 価格も容器単位ではなく、1回の洗浄に必要な量で比較します。

肌トラブルが続く場合には製品との関連を検討し、必要に応じて皮膚科に相談します。

良かれと思って選んでいるものを、私たちはどこまで検証しているのか?

子どものために、少しでも安全なものを選びたいと思います。

その気持ちは今も変わりません。

ただ、その気持ちが強いほど、「子どもに優しい」「天然由来」「無添加」といった言葉を疑いにくくなるのかもしれません。

科学の世界では、仮説を立て、根拠を調べ、反証の可能性を検討します。

ところが日常生活では、一度正しいと思った選択を、そのまま何年も続けてしまうことがあります。しかも家族のためにしていることなら、なおさらです。

今回の洗剤の話は、自分にとって少し耳の痛いものでした。

これまでの選択が必ずしも間違いだったわけではありません。ただ、その選択を正当化していた理由には、十分な根拠がありませんでした。

科学的に考えるとは、常に正しい選択をすることではありません。

自分の選択が間違っている可能性を受け入れ、新しい根拠が得られたら、その判断を更新できることです。

これからも子どものために良いものを選びたいと思います。ただし、その「良い」は、できる限り自分で確かめていこうと思います。


参考資料

  1. 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024』(CQ27)
  2. 米国環境保護庁(EPA)『Frequently Asked Questions on Safer Choice』(天然由来表示と安全性)
  3. 米国小児科学会 HealthyChildren.org『Cleaning Baby Clothes』(2009年更新)
  4. 米国皮膚科学会『Eczema: Tips to help your child feel better』(湿疹のある子どもの洗濯)
  5. 米国環境保護庁(EPA)『Safer Choice Criteria for Surfactants』(界面活性剤の環境影響の評価)

※本記事は洗浄製品の一般的な選択基準を公開資料から整理したものであり、特定製品の安全性評価や医療上の助言を目的とするものではありません。

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