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『新版・科学者たちが語る食欲 食欲人(EAT LIKE THE ANIMALS)』を読み終えました。
バッタからゴキブリ、ショウジョウバエ、マウス、霊長類、そして人間へ。かなり長い距離をたどる本でしたが、読み終えて残ったのは意外にシンプルな問いでした。
タンパク質は、多ければ多いほどいいのでしょうか。
最近の自分は、肉類をほぼ避け、豆腐、油揚げ、豆類などからタンパク質を取る植物中心の食生活を続けています。以前は糖質制限寄りの時期もあり、今より動物性タンパク質の比率は高かったはずです。
植物中心に変えてから、主観的には活力が出たことや、髪の状態などに良い変化を感じています。ただし、これは「タンパク質を減らしたから」と証明できる話ではありません。食物繊維、炭水化物、脂質、総エネルギー、微量栄養素、腸内細菌など、同時に変化したものが多すぎるからです。
それでも、この本を読んだことで「タンパク質を十分に取ること」と「タンパク質を最大限取ること」は別物だ、と考えるようになりました。
今回読んだ本
タンパク質を一定量まで食べようとする「タンパク質レバレッジ」
本書の中心にある考え方の一つが、タンパク質レバレッジ仮説です。
動物はタンパク質の摂取量をある程度一定に保とうとします。そのため、食事中のタンパク質比率が低いと、必要なタンパク質量に到達するまで炭水化物や脂質も一緒に食べ、結果として総摂取エネルギーが増えることがある、という考え方です。
これはバッタだけの奇妙な現象ではありません。人間でも、食事中のタンパク質比率と総エネルギー摂取量の関係を支持するデータが報告されています。ただし、体重や肥満まで単純に説明できる万能理論ではありません。
自分なりに言い換えるなら、
必要なタンパク質は取る。でも、タンパク質を目的化して食事全体を高タンパク化する必要はありません。
この区別が、この本から得た一番大きな収穫でした。
「低タンパク・高炭水化物で長寿」はかなり面白い。ただしマウスの話
本書で特に印象に残ったのが、マウスの栄養幾何学研究です。
タンパク質、炭水化物、脂質の比率を変えた多数の食餌を与えた実験では、低タンパク質・高炭水化物側で寿命が長くなる一方、繁殖に適した栄養比率はそれとは異なっていました。
つまり、「成長・繁殖に有利な食事」と「長寿に有利な食事」は同じではありません。
さらに興味深いことに、別の解析では、マウスの肝臓テロメア長が最も長かった領域も低タンパク質・高炭水化物側でした。
ここは誤解しないようにしたいところです。
低タンパク食を食べれば、人間のテロメアが伸びることが証明されたわけではありません。
研究で示されたのは、特定条件のマウスで「低タンパク・高炭水化物食を与えられた群ほど、肝臓のテロメアが長く、寿命も長かった」という関連です。
それでも、「高タンパクこそ健康」という単純なイメージに対する反例としてはかなり面白い結果です。
自分の植物中心食で何が変わったのか
自分の場合、以前は糖質をかなり抑えることがありました。
糖質を減らせば、自然と肉、魚、卵などの比率が上がりやすくなります。その後、ほぼ肉を避ける食生活に変え、豆腐、油揚げ、豆類などを意識して食べるようになりました。
体感としては現在の方が調子がいいです。
ただ、原因候補は一つではありません。
- 動物性タンパク質の摂取量が減った
- 食物繊維が増えた
- 炭水化物量が戻った
- 飽和脂肪の摂取量が変わった
- 豆類や野菜から取る微量栄養素が増えた
- 腸内細菌に届く発酵性基質が増えた
- 単純に以前の糖質制限が自分には強すぎた
こうした変化が全部重なっている可能性があります。
だから、「ビーガンだから髪が生えた」といった因果関係は言えません。一方で、食事全体の栄養バランスが以前より自分に合う方向へ動いたという仮説なら、十分あり得ると思います。
「肉は腸の中で腐る」は半分正しく、半分違う
読書中にもう一つ気になったのが、動物性タンパク質と腸内環境の関係でした。
冷蔵庫に肉を置いておけば腐敗しやすい一方、野菜はしなびたり軟化したりします。この違いを見ると、「肉は腸内でも腐りやすいのでは」と考えたくなります。
ただし、冷蔵庫での腐敗と消化管内の現象をそのまま同一視することはできません。
食べたタンパク質の大部分は胃と小腸で消化・吸収されます。そのうえで、消化されなかったタンパク質や内因性タンパク質の一部が大腸へ届き、腸内細菌によるタンパク質発酵(proteolytic fermentation)を受けます。
この過程では、アンモニア、フェノール類、硫黄化合物などさまざまな代謝物が作られます。
重要なのは、これは「肉だけに起きる特殊現象」ではないことです。植物性タンパク質でも未消化分が大腸に届けば、タンパク質発酵は起こります。
違いを作るのは、タンパク質の量・種類・消化性、そして一緒に大腸へ届く食物繊維などの発酵性炭水化物です。
動物性タンパク質を食べるなら、何を組み合わせるか
この点を調べると、「動物性タンパク質は食べない方がいい」という単純な結論にはなりませんでした。
動物性タンパク質には、少ない食品量で必須アミノ酸を効率よく取れるという明確な利点があります。
一方で、タンパク質を大量に取り、食物繊維や発酵性炭水化物が少ない食事では、大腸でタンパク質発酵が優位になりやすくなります。
対策として比較的根拠がしっかりしているのは、
- タンパク質を必要以上に増やさない
- 野菜、豆、全粒穀物などから食物繊維を十分に取る
- レジスタントスターチやオリゴ糖など、腸内細菌が利用できる炭水化物を確保する
- 超加工食品中心ではなく、食品そのものに近い形で食べる
といった方法です。
読書中には「肉を一度に大量に食べず、小分けにすればよいのでは」と考えました。タンパク質を一日に分散させること自体には別の栄養学的メリットがありますが、小分けにすることだけで大腸のタンパク質発酵を抑えられる、とまでは現在の研究から断言できません。
ここは、読みながら考えた仮説と、確認できている科学を分けておきたいところです。
豆腐半丁〜1丁は「ちょうどいい起点」かもしれない
自分の食事では豆腐が使いやすいです。
商品によって差はありますが、木綿豆腐なら半丁程度でおよそ10g前後、一丁なら20g前後のタンパク質を取れます。
もちろん、米、パン、麺、野菜、豆類などにもタンパク質は含まれるので、「豆腐一丁=一日のタンパク質」という話ではありません。
それでも植物中心の食事で、
タンパク質を不足させず、かといって高タンパク食に振り切らない
という設計をするなら、豆腐や納豆、豆類を毎日の基礎に置くのはかなり扱いやすいと思います。
本書には15%前後という数字も頻繁に登場しますが、15%を万人の絶対的な最適値と考える必要はありません。体格、活動量、年齢、妊娠、筋力トレーニングなどによって必要量は変わります。
超加工食品の問題は「タンパク質」だけでは説明できない
本書後半では、超加工食品の問題が大きく扱われます。
ここは本書の主張を少し広く捉えた方がいいと思いました。
NIHの入院管理下のランダム化比較試験では、超加工食品中心の食事で、非超加工食品中心の食事より自由摂取時のエネルギー摂取量が増え、短期間で体重も増加しました。
ただし、その原因を「タンパク質が薄いから」だけで説明するのは難しいです。
食べる速度、食品構造、エネルギー密度、食感、脂質と炭水化物の組み合わせなど、さまざまな要素が関与します。
タンパク質レバレッジは、その中の一つの有力な説明モデルとして見るのがよさそうです。
読み終えて残った結論:「必要量」は大事。「最大量」はいらない
『食欲人』を読み終えて、食生活を劇的に変えようとは思いませんでした。
むしろ逆です。
自分が現在やっている、
植物性食品を中心にして、豆腐や豆類からタンパク質を意識して確保する
という食事の考え方に、少し理屈が加わった感覚があります。
タンパク質は重要です。足りないのは困ります。
しかし、
重要だからといって、多ければ多いほどいいわけではありません。
そして、タンパク質だけを取り出して考えるのではなく、炭水化物、脂質、食物繊維、微量栄養素を含む「食事全体の比率」で考えることが大切です。
これがこの本から一番持ち帰る価値があった部分だと思います。
植物中心食を続ける場合も、「植物性だから自動的に完全」というわけではありません。適切に設計されたビーガン食は成人の栄養を満たせる一方、特にビタミンB12は確実な補給源が必要で、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンD、ヨウ素、ω3脂肪酸などにも注意が必要です。
極端な高タンパクにも、極端なタンパク質制限にも行きません。
必要なだけ取る。残りは、なるべく食品そのものから食べる。
今のところ、それくらいが一番扱いやすい結論になりました。
参考にした研究
- Solon-Biet SM, et al. Macronutrient balance, reproductive function, and lifespan in aging mice. PNAS. 2015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25733862/
- Lee MB, et al. The Relationship Between Dietary Macronutrients and Hepatic Telomere Length in Aging Mice. 2018.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30052781/
- Honfo SH, et al. Evidence for protein leverage on total energy intake, but not body mass index, in a large cohort of older adults. Int J Obes. 2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38145994/
- Hall KD, et al. Ultra-Processed Diets Cause Excess Calorie Intake and Weight Gain. Cell Metab. 2019.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31105044/
- The fate of dietary protein in the gastrointestinal tract and implications for colonic disease. 2026.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41571828/
- Academy of Nutrition and Dietetics. Vegetarian Dietary Patterns for Adults: A Position Paper. 2025.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41474402/
※本記事は、読書内容と筆者自身の食生活について考えた記録です。個別の疾患治療や栄養療法を目的とした医療アドバイスではありません。


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